ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
***********


東京都渋谷区――。


道玄坂から少し奥まった処に堂々聳(そび)え立つ、やや懐古的(レトロ)な煉瓦造りの校舎群が、私立桐夏(とうか)学園高等学校である。


カトリックの学校のように落ち着いた雰囲気を持つが、宗教性は何もなく、生徒の自主性を重んじた校風を持つ、"自由"がウリな今時の共学校だ。


その一画、普通科2年。


日直による終礼の号令が終わると共に――

あたしは鞄をむんずと掴み、一目散に教室から飛び出した。


「待てええええ!!」

「捕獲しろぉぉぉぉ!!」

「何処に消えた!!?」

「あっち行った!!」

「いや、こっちだ!!!」


鬼の形相で追いかけてくるのは、普段おしとやかに振る舞っている綺麗なお姉様達。


毎日念入りに化粧研究をして、ばっさばっさのツケマツゲを施して、甘ったるい香水をつけて、くるくると髪をコテで巻いた…そんな女達が、ヤクザ顔負けのドスの利いた声を発して、血走った目をしてあたしを追いかけてくる。



「「「神崎を捕まえろ!!!」」」



膨れあがる追手達。

クラス学年関係ない。


性別が女であれば、誰もがあたしの敵となる。


そんな女狼達から逃れようと、脱兎の如く走り回っている哀れ子羊は、あたし…神崎芹霞(かんざきせりか)。


普通科に在籍して2年目の、何処にでもいる平凡過ぎるただの庶民だ。


得意科目は体育だけ、勉学全般てんで駄目。


容姿は並(以下)だから、化粧を始めとしてお洒落をしても時間の無駄だと、したこともなく。


自然体第一楽天思考、特出すべき点は何もない平々凡々女だ。


そんなあたしが、美女達から追いかけられているのは、1度や2度のことではないけれど、あたしが1人になった時の…最近の執拗さはかなりのもので。


その原因があたしにあるではなく、不可解なりにも何か"外部的起因"が生じたせいだと、推測すればこそ…あたしに出来ることは、無関係を装ってただ逃げることだけ。



走る、走る。

あたしは走る。



女達のあの形相!!

捕まったら最後、骨の髄までしゃぶられる。


ホラーは嫌い、
スプラッターも嫌い!!



< 6 / 974 >

この作品をシェア

pagetop