ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
これ以上、玲から何も奪いたくはない。
だけど芹霞だけは奪われたくはない。
その煩悶はかなり辛い。
争うのは、玲だけではないのかもしれない。
玲を見ていた煌の顔つきも変わった。
意識的か、無意識的か。
部下以上に深く、
友以上に強く、
きつく結びついてしまった俺達の絆は、これからどうなってしまうのだろうか。
俺達の関係を賭けて、
いつか俺達は、隠さぬ心で向き合わねばならない。
誰に遠慮するでもなく、
ただ求める心のまま。
それからでなければ、何も始まらない。
俺は――
争いを覚悟しないといけない。
建物から追い出された俺達は、
そこで建物の中で襲った震動の正体を悟る。
「電車が……山手線が……」
線路が断絶され、煙を上げた電車が横倒しになっている。
けたたましいサイレンの音。
悲鳴。
荒げられた声。
悲惨な…大事故の現場だった。
その時、玲の携帯に電話がかかってきたようだ。
「由香ちゃん? ああ、僕達は大丈夫……え? 山手線が全て崩壊?」
被災地は山手線一周分、
全域――全滅か。