ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~


「それでなくても祭だから……すげえ事故だよな。何だ? 天災か? 人為的か?」


煌が険しい顔で呟いた。


「櫂様、桜は嫌な予感がします」


桜も煌に呼応した。


「私達が見えているのは、"偶然"の大惨事…ではないでしょう。この事故によって東京の交通網は分断された。道路も救助非難で大混雑。私達がその中に放り出されたのは、退路の破壊……とだけは考えられない」


桜の直感はかなりいい。


「何か……

意図的なものを感じます」


俺は、同意するように大きく息を吐く。


「私達の解放が安易過ぎる。からかう為だけに呼ばれたわけではない。……だとすれば、此処から逃れられない、或いは逃したくない何かがあるのでしょう。


"時が来た"、と確かに藤姫は言っていましたし。警戒しなければ」


――早く滅んでしまえばいいのに。


あの女はそう言った。


"早く"

だとすれば、間もなく何かが起きる。


――あの女諸共。


"あの女"…。


頭に過(よ)ぎったのは芹霞の姿。


だが、どう考えても、芹霞と藤姫…或いは亜利栖に、接点は見付からなかった。


では…誰のことだ?



――生き残ってみなさい。



見上げた建物の中、

あの女の口は、確かにそう動いた。


俺達は――

まだあの女の手の中に居る。


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