ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
あたしは腕時計を見た。
3時まで、あと15分ある。
血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)の大群の顔は虚ろで、弥生の家の時のように、こちらにしっかりとした敵意を持ってはいなさそうだった。
押し寄せる数を見れば気を失いそうになるけれど、殺気を持って…積極的な攻撃をかけられていないだけ、まだましだ。
しかも紫堂の面々の攻撃で、モーゼの十戒の海が割れる1シーンのように、通り道が強制的に作られるので、さしたる切迫感は湧かない。
あたしは、彼らの存在に安心しているようだ。
安心……。
…………。
あたしは櫂の服の裾を引っ張った。
「どうした?」
「櫂の携帯貸して。あたしの携帯……陽斗に電話したい」
あれから結構時間が経つのに、
陽斗から連絡がないのが気がかりだった。
櫂は一瞬嫌そうな顔をしたけれど、急かすあたしに、仕方が無いとぼやきながら彼の携帯を取り出した。
着信履歴からあたしの携帯に電話をするが、呼び出し音が長く鳴るだけで応答はない。
「大丈夫かな、陽斗……」
「そんなに気になるの?」
突然、玲くんの怒ったような声が降ってきた。
玲くんは血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)に渾身の一撃を食らわせた後、あたしに振り返る。
端麗な顔は、無表情故に冷たくて。
あたしは思わず櫂の携帯を落してしまった。
それを櫂が無言で拾ってくれる。
「そ、そりゃあ気になるでしょう。陽斗はあたしを庇って、あの中に残ったんだから。あたし、友達を置き去りにしたんだよ?」
「本当にそれだけ?」
玲くんの手には血色の薔薇の痣(ブラッディ・ローズ)。
その執拗なまでの攻撃は、
まるで八つ当たりのように。
「それだけって?」
あたしは思わず訊いてしまった。