ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
敵――。
惑わせて喜ぶ、あの藤姫の。
思惑通りにさせるものか。
「薄れた記憶です」
俺は精神統一の為の深呼吸を1つして――皆に笑った。
もう引き返せないなら、進まねば。
いつも言い聞かせてきたように。
揺らいでいる暇はない。
見渡せば…玲と芹霞がいなかった。
代わりに赤く光る月長石。
僅かに目を細めた俺に、桜が控え目に言った。
「櫂様は熱を出されていて。桜が駆けつけた時には、玲様は守護石を残して消えていて……」
「芹霞は?」
促した先の桜は言い淀み、代わって煌が吐き捨てるように言った。
「氷皇が、俺達の――
俺の前で芹霞を掻っ攫った」
「そうか……」
煌も玲も桜も居て。
それでも敵わぬ相手となれば、氷皇ただ一人。
玲が姿を消したのは、準備が整った為だろう。
遠坂由香の補助にて、東京破滅の呪詛プログラムの内部に入り込めた暁には、玲自らサーバのある本拠地に乗り込み、内部破壊させる。
それを氷皇達に気づかれないようにしているはずだ。
それは手筈通り。
だとすれば、玲と芹霞は共に居る。
少なくとも、芹霞は無事のはずだ。
「紅皇……」
俺は緋狭さんに振り返る。
「8年前、貴方と藤姫との間には何があったんですか?」
神秘的な黒い瞳が、僅かに揺れた。