ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



――チャンスをあげてもいいわ。それ相応のものをくれるなら。



「そして緋狭さんは…

その場にあった…

俺の剣を拾い上げると」



――利き腕です。そして私は紅皇の地位を退きます。



「右手を切り落とし――…

五皇の証である赤い蓮のバッチを差し出した。


――…躊躇うことなく」




櫂の目から……

涙が静かに零れていた。



綺麗だと思った。


男の涙も十分に綺麗だ。


「坊は厳しい私の修行に耐え…玲には悪いことをしたが、玲を見事打ち負かし、次期当主の座を勝ち取った。無論、当主も反対する理由もなく、坊が芹霞の中の石を操れるまで、私と共に石に力を注いでくれた。

そして坊が力を完全に操れるようになった頃、芹霞は目覚めた。丁度私にやられ瀕死から回復した煌が集中治療室から一般病棟の……芹霞の隣のベッドに移るその前のことだ」


そして俺は芹霞に殴られ――


――あんた何で笑わないのよ!!


惚れてしまったのか。



芹霞は。


あんなにも生気あふれているのに。

あんなにも人間らしく感情豊かに生きているというのに。



芹霞は――

櫂に護られ…

生き続けているというのか。


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