ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
「当主を動かすには、それ相応の理由が要る。第一、藤姫を敵に回すことになる、そう簡単にいくまい。
特に坊の潜在力を妬んでいた当主にとって、追い出した坊の望みを却下するだろうことは予想に容易い。その為には……」
「俺は――…
親父に意見できる立場に、
次期当主になる必要があった。
……出来るだけ早く」
――坊。芹霞を救けたいか?
――どんな辛い目に遭おうとも、耐えられるか?
――今のお前を捨てられるか?
――芹霞が欲しいのなら、手に入れろ。その為に私は居る。
櫂の伏せられた目の睫は、小刻みに震えていた。
「だが当時玲が次期当主だった。俺は緋狭さんの手を借り、元老院の本拠地に赴いて、その場で紹介されている玲の前で、親父に懇願した」
――父上。どうか僕を次期当主に。
「嘲笑された。見下された。殴られた。だけど形振りかまわず俺は縋った。
芹霞の為に。
芹霞を救いたいが為に俺は、矜持を捨てて泣きついた」
――玲と戦ってみよ。
「戦い慣れしている玲と、初めて武器を見る俺との間には天地の開きがある。
力を抜いた玲にも、俺は勝てない。
剣を引き摺って、動かすので精一杯だった。
……そんな時だ」
――お待ちください、当主。
「場に現れた緋狭さんは、親父に猶予を申し出た。短期の修行で、俺は玲に勝てると宣言した。元老院は笑った。その中に藤姫もいた。
言い淀んでいる親父を制するように立ち上がったのは、皮肉にも藤姫だった」