ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~
芹霞の心がまだ手に入れられていない今としては、藤姫を叩き潰すしかとれる手段はない。
俺の想いがどうだとか、そんな私情よりも前に、芹霞を助けねばならない。
ただ単に芹霞の中から石を取りだしたとしても、それを操る唯一の俺がいる限り、他人にとってはただの石ころだ。
例え石に慣れた藤姫にしても、俺の力を十分に浴びている芹霞の中の石は勝手が違うはず。
それは藤姫サイドも判っているはずだ。
だから、なのだろう。
仲間達の不和。
芹霞との別離。
黒の書を用いて東京を破壊したら、後は、俺を死なぬ程度に弱らせた中、芹霞から取りだした石の力を操り、生ける屍と制裁者(アリス)を融合した存在を作る。
藤姫の、愉しみのために。
俺は、自分を立て直さねばならない。
俺さえしっかりしていれば、芹霞を失わずにすむ。
緋狭さんは悲しげな眼差しを俺に向けていたけれど、俺は大丈夫だと頷いた。
緋狭さんが来てくれただけでも、彼女が見捨てなかっただけでも、俺は十分力になったのだから。
緋狭さんは、昔から変わらず十分俺達の背を押してくれた。
退役しても、襦袢姿で俺達を攪乱しても、俺達を見守る優しい眼差しは、昔と何一つ変わりなく。
――ご両親と芹霞さんを襲ったという制裁者(アリス)は、煌ではないんですか?
俺の耳に桜の言葉が届いた。
煌はその会話に気づいていないようだ。
――……気のせいだ。
その言葉に俺は静かに安堵した。
桜の大きな目がくりくりと動いている。
判ったのかもしれない。
煌であったのだと。