=寝ても覚めても=【完】
主は加減のないゲンコツで殴られた。
気持ちの良い音がした。
『ごめんなさい』
頭を押さえて主はスンスンと泣きだした。
仁科はこいつ絶対嘘泣きだと思った。
しかし葬式でもないのに、こんなところで男二人して泣いているのは滑稽だ。
あまりの馬鹿馬鹿しさに涙は止まった。
泣きやんだらようやく宇治方先生がこちらを見た。
『すまない、仁科・・・こういう奴なんだが、やっぱり嫌だろう?』
嫌だった。
けれどこのまま泣いて逃げだす奴だと宇治方先生に思われるなど、もっと嫌だった。