神隠し
アタシはぐっと奥歯を噛み締め、元来た道を戻り始めた。

…静かだ。

アタシの歩く音しかしない。

誰の気配も無いけれど、何かの存在は感じる。

声は聞こえないけれど、空気は震えている。

そして…アタシを見ている視線に気付く。

けれどその存在に気付いた姿を見せれば、きっと囚われる。

走り出したい、叫び出したい衝動を抑えながら、一歩一歩を踏みしめて歩く。

だけどそろそろ限界かもしれない…。

叫んで、ここから逃げ出したい気持ちが心を占める。

手を組み、胸に当てて必死に堪える。

逃げ出したらダメ。捕まってしまうからダメ。

捕まれば、二度と逃げられない。戻ってこられない。

冷や汗が背中までダラダラ流れる。

足がガクガク震えだした。

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