忘却の勇者

それだけは、絶対に避けなければならない。


「君の問いに答えようか。確かに血の道を歩むのは兵士達だ。けれど彼らは自らの命を投げ売る覚悟を持って軍に入った強者達。今ここで私が臆病風に吹かれれば、彼らの意思を踏みにじることになる。
ならば私は邪の道を進む。鬼だ悪魔だと罵られようと、彼らの意思を達するためにどんな汚い手も使うつもりだ。必要であれば、今この場で勇者を殺す覚悟もある」


「黙れ!」


傷はまだ完治していないが、無理やり立ちあがると右手に氷の刃を生成して、今にも跳びかかろうとする。


が、レインは刃を手にしたままその場に立ち尽くした。


……身体が動かない。


オレオとマリも同じ状況下に置かれていた。


首や手やなど細かい個所は動かせるが、それ以外の場所は動かすことができずに固まっている。


自由を奪われた身体。


オレオは無理やり腕を動かそうとするが、勇者の力を持ってしても徐々に徐々にと数センチ単位でしか動かせない。
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