忘却の勇者
オメガも直感的に、この術が危険なものであることを感じ取る。
完全に術が発動する前に脱出しなければ。
風穴を開けようと剣の柄を強く握るが、ふと思いとどまる。
そうだ。マスターキーを使えば……。
―――戦いは、一瞬の判断で全てが決する。
ベルトに巻き付けたキーホルダーに手を伸ばすと、指先からひんやりとした感触が脳に伝わった。
漆黒の鍵は、氷蒼の結晶によって封じられている。
レインの氷結魔法。この状態ではレインの魔力が妨害して、マスターキーを使用することが出来ない。
「きさまぁっ!?」
再び剣に力を込めるが、時すでに遅し。
「さよなら、憐れな神とやら」
鮮血の刃が、氷蒼の世界に赤味をもたらした―――