かさの向こうに縁あり
「大丈夫?こんな物騒で薄気味悪い所、女の子一人で来たら駄目だよ?」



「ありがとうございます」と言いたいのに、口を開いても声が音となって出ていかない。


この人に感謝の気持ちぐらい伝えたいのに。



「どうしたの?……大丈夫?」



死なずに済んだことへの安堵、言葉が出ないことへの怒りや悲しみ。

そして不思議なほどの疲労感。


それら全てが重なって、地面に倒れ込み、意識を手放した。



「君、大丈夫――」



声も何の音もしない世界。

空っぽの世界。


こんな世界が本当にあるなんて、と感心しながら、私は深いのか浅いのか分からない眠りについた。


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