かさの向こうに縁あり
山の方に行けば、きっと誰にも気づかれることなく過ごせるだろう。

平助が見つけてくれるまでの間、どのくらいかかるかは分からないけれど、それまでの辛抱だ。



山の中で待とう、平助を――



ぎゅっと目を閉じて、ゆっくりと歩く。


機械音のない、鳥のさえずりばかり響くこの空間。

意外といい場所、いい時代じゃないか、なんて今さら思えてくる。


山の中では一体、どんな生活をすればいいのだろう?


木の実を食べるリスのような、仕留めて獣の肉を食べる狩人のような……

そんな暮らしを想像したことはなかったし、現代人すぎる私には到底できっこないんじゃないかと思う。


やっぱり山暮らしは無理かー……


そう思っては、両手を上げて伸びをして、ようやく目を開ける。


空を仰ぎ見ても、何の建物も視界に入らないなんて、いいなあ。



ふっと微笑んで両手を下ろそうとした時、背後から誰かの足音が聞こえた。

しかも、この世界ではまだ聞いたことのない、革靴のような音だ。


あれ、ここって石畳だったかな、と同時に思う。

そうでなければ、革靴のようなカツンカツンという足音など分かるはずもない。


何か危ない人なんじゃ、と不安を抱いていていると、足音は止まった。




「――あれ、妃依?こんな所で何してるんだ」


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