かさの向こうに縁あり
階段を全て降りるとリビングへ続く廊下を歩き、ようやく朝食が現れた。


リビングには母しかいなくて、いるはずの父の姿がなかった。



「お父さんは?」



ふいに問うてみる。

すると母はきょとんとした顔をしてから、笑って答えた。



「何言ってるの。お父さんは昨日から京都に出張よ。お土産、今のうちに頼んでおいた方がいいわよ」


「あ……そっか」



すっかり忘れていた。

父は昨日から出張でここからかなりの距離がある京都に行っているのだった。


『ここ』というのも、私達、村瀬家の家は茨城県大子町にある。

田舎に値する地域だ。

だから昨日、京都なんていう、華やかで都会の雰囲気が溢れる所に出張に行ける父を、羨ましく思っていたんだっけ。


とんだど忘れをしていた。



「珍しいじゃないの、妃依がお父さんのことを気にするなんて」



私が箸を持ち、テレビの電源を入れると同時に、母はそう言った。


珍しい、というのにも訳がある。



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