君はガラスの靴を置いていく
『………素敵だね。ここら辺の空じゃこんな星空見れないから感動する』
千花は焼き付けるように星空を見ていた。その目はキラキラしていて、きっとこんな風に真っ直ぐで素直なところに惹かれたんだと思う。
『ありがとう、宮澤君』
もう名前では呼んでくれないけど、あの頃に戻りたい訳じゃない。ただもう1度出会った頃からやり直したいだけだ。
『千花………』
『ん?』
思わず気持ちを言ってしまいたくなったけど、
やっぱりダメだとブレーキがかかった。
『あー、えっと2組は占いカフェだっけ?』
『うん、運勢付きのジュースとかお菓子とか出して、個別で恋占いとかも出来るスペースがあったりするの』
せっかく星空で感激してくれてるのにそれを壊したくない。
『ふーん、千花はなにやってんの?』
『私は出口に立って最後に引くおみくじ係』
『占ってもらっておみくじまで引くの?なんか最後に凶とか出たら占いした意味なくない?』
『ふふ、それが中身は全部大吉なの』
あー、なるほどね。そうすればみんな気持ちよく帰れるって事か。みんな色々考えて出し物やってるんだな……
星空は春から夏、秋から冬へと変わり星座の説明と共にオリオン座が浮かび上がっていた。
『なんか不思議。宮澤君とこんな風に話してるなんて』
今俺も同じ事考えてた。
『私達って前より今の方が会話してる気がするね』
千花はあえて“付き合ってる時”とは言わなかった。
付き合ってる頃、千花とどんな話をしてたのかよく覚えていない。お互い何も知らないまま付き合い始めたし、たわいない会話なんてほとんどしてなかった気がする。
俺は俺で全然千花の事を考えてなかったし、
千花も最後まで俺への緊張はとけなかった。