恋を、拳と共に

朝練を終えて着替えて教室に入ると、千里が自分の席から手招きしていた。

「おはよう、千里……?」

千里はなぜか口に人差し指を当てていて、まるでナイショの話をしたがっているようで。
「おはよ、茜」

やはりちょっぴり小声である。
そして、更に手招きするので、私は千里の真ん前に顔を持っていく。

「なに、何かあった?」

「実はさー、今朝体育館で、進藤くんに聞かれたんだけど……」

千里の話によれば、バドミントン部の朝練から戻る時に、同じく体育館で朝練をしているバスケ部の進藤くんから呼び止められて、私のことをいろいろ聞かれたらしい。


バスケ部の進藤くんって、なんかチャラい感じの人じゃん。
私が、ちょっと苦手な種族の。
何で私のことなんか聞くんだろう。

「えー…… 私のメアドまで訊いてきたの?」

「うん。一応個人情報だし、本人の了解取ってからね、って言っといた」

「さすが千里。そんな人づてに聞いてくるなんて、なんかよからぬことに使われてもイヤだし、『断る!』って言っといて!」

「わかった。しつこく訊いてきたら、茜の拳が飛ぶよ、って言っとく」

「うん、ありがと」


担任の先生が教室に入ってきて、朝のショートホームルームが始まった。
今日の職員会議で正にその個人情報のことが話題になったそうで、今度その件でプリント配布があるとの話だった。

私は先生の話を、頭の半分くらいを使って聞いていた。
そして残りの半分で、ぼんやりと考えていた。


――なんで、進藤くんが、私のメアドを千里から聞いてきたのかなー。



聞きたければ直接聞いてくれば、場合によっては、苦手なチャラい人でも教えなくもないのに。
千里も私の性格を知ってるからか、千里の信念からか、ちゃんとガードしてくれて、ありがたいことだ。


今までにも何度も、"筋が通ってない"と感じる出来事がいくつもあった。
そういう時、千里も同じように感じていたことが判って、うれしくなって。
そんなことの繰り返しで、私たちは気が合い、仲良くなっていったのだけど。



ぼんやりといろいろなことを考えているうちに、1時間目開始のチャイムが鳴っていた。
私は慌てて、授業を受ける準備をしていった。
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