ノイズ
「スピード出し過ぎじゃない?」



「可奈が重いから、スピード出さねえと走れねーの!」



「何それ。あたしはそんなに重くないですよーだ!」



黙っていると裕美を失った悲しみに押し潰されそうな気がして、わざと軽口を叩いてみせた。


二人を乗せた自転車は横断歩道を渡って、閑静な住宅街に入って行く。


街頭は設置してあるものの、薄暗い場所もいくつかある。


不審者がどこかに隠れていたとしてもおかしくはなかった。


数メートル先の電柱に人影が見える。


街頭があるにもかかわらず、なぜか顔がよく見えない。


自転車が電柱の前を通り過ぎた。


文也は何事もなかったようにペダルを漕ぎつづける。


電柱の人影はゆらゆらと動いていたが、やがて輪郭がぼやけてスーッと消えていった。



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