メガネ男子は俺様王子さま
すぐにドタバタと複数の人の足音と言い争う声が聞こえてきました。
「だから、俺が」
「ばかね。あんたが女子トイレに入ったら救助でもさわぎになるでしょう。外で待ってなさい。」
「いいから外にいてちょうだい。私が連れ出すから。あなたが特定の誰かを抱き上げてたなんて見られたら、それだけでもあの子のダメージになるでしょう?言ったでしょ。必要以上構うなって。それがあの子のためなのよ。今はとにかく救助が先。外で待ってなさい。これは命令よ。」
「でも…」
「どっちのためにも!これ以上噂の種をふりまかないで。」
きっぱりといつになく厳しい安斎さんの声が聞こえたと思ったら、強くドアをたたく音が響きました。
「美羽ちゃん?今、隣の個室から壁を乗り越えて入るけどいい?返事できる?大丈夫ならドアを一回叩いてちょうだい。」
力の入らない震えた手で何とかすがっていたドアを一度叩き返しました。
「わかった。行くわよ!」
すぐに近くで人の気配がして、見上げる間もなく抱き上げられました。
それが誰か確認しようと目を向けましたが、視界がなぜだか真っ白で眩しくて何もとらえることができませんでした。
ただ、
「よかった。ただの貧血みたいね。熱があるかしら?とにかく瑠奈の部屋に運びましょう。」
耳元で響く声にそれが安斎さんだということだけわかると、後は墜落するように真っ暗な中に吸い込まれていき、何もわからなくなりました。