みにくい獣の子



「ダイジョブ、すぐ落ち着く」

「ちょっと寝る?」

「…ん」


ソファの上で背もたれに深く寄りかかり、額に腕をのせて静かになる。
リクはそんな状態でもなんだか綺麗だった。

近寄りがたいというか、儚げというか。いつもツンツンしている赤い髪も心なしか大人しい




「みさきさん、膝借りるわ」

「膝っ…?」

のっそり、了解をとることなくリクの頭が私の膝に位置どってきた。



頭は重くて温かい。心地よい重量感が気持ち良い


「リク…」


安心してね。私、リクが好きだから。どんな貴方でも「知りたい」って思えるよ。

気持ちを込めて、髪を撫でた





「むー……」


リクが唸りながらむっくりと起き上がった。それは、私の膝の上で静かになって暫く時間をおいてからのこと。

痩せ型だけどしっかりした体躯はおもむろに立ち上がり、ふらふらと洗面台に歩いていく。

顔色、そんなに良くないけど大丈夫かな



――ガタンッ

洗面台から大きな鈍い音がした。人が倒れたような。

「リクッ!」


急いでドアを開け、広がった光景に息を飲んだ


リクが。


赤い髪の毛が伸びて全身を覆い、体がみるみる縮んでゆくのだ。手、足、顔が変形し、彼の洋服は服の意味を成さなくなる。


「リク!!」


心のどこかでまだ信じていなかったんだろう。人間が人間でなくなるという、

異常を。


どうして?なんで?
どうやってこんなことが起こるの?

どくん、どくん、上がりきった心拍、混乱状態のまま洗面所の床に座り込む。本当の本当に、私の目の前に彼という生き物が存在している。


< 58 / 60 >

この作品をシェア

pagetop