CAPTORS
しばらくの間、物珍しさのおかげで時間が過ぎていったが、だんだんと不安の方が強くなってくる。

やっぱり帰ろうか……

歩みを止め、ふと後ろを振り返る。

まっすぐに伸びる廊下の先には自分が乗ってきたエレベーターが見える。

そういえば、と思い返す。自分は研究室に呼ばれていたのだ。早く行かなければ、何をいわれるか分かったものではない。

帰る決心が固まり、踵を返す。

それとほぼ同時だった。

軽い電子音が響き、エレベーターの扉が開く。

ヤバいと思っても身を隠せる場所もなく、慌てふためくことしかできない。

相手もこちらに気づき、足を止めた。

長い栗色の髪を背中まで伸ばし、両の瞳は青と緑と左右で色が違う。その瞳は今驚きに彩られている。

そこにいたのは自分と同じくらいの少女だった。

自分は今とてつもなく不振人物に映っているに違いない。

しばし続く沈黙。

「……あ、の」

沈黙に耐えかねて口を開いたのは希螺が先だった。

すると、少女がはじかれたように希螺へと駆け寄った。

肌が触れそうなほどに詰め寄り、希螺の顔をじっとのぞき込む。

「へ……??」

突然のことでとっさに対応できず、硬直する希螺。

またしばし沈黙が続く。

自分は今何をされているのだろう。

だんだん状況が分からなくなってきた希螺がそろそろと少女から目を逸らす。

「ダメ」

凛とした声で制される。

少女の声だった。

その声に再び驚き、視線をまた少女の方へと向ける。
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