CAPTORS
左右色の違う瞳がこちらをじっと見つめていた。

「あなた、瞳、キレイね」

にっこりと少女が笑う。花が咲いたようなあどけない笑顔。

希螺は、自分が赤くなっていることを自覚する。

「名前、教えて?」

「え?」

思わず聞き返してしまった。

「あなた、名前」

「ぅえっ?……えと、き、希螺……だけど」

しどろもどろで答えると、少女が満足そうに笑い、希螺から離れた。

少女が離れるとき、希螺の鼻に甘い香りが漂う。果実のような花のような、今まで経験したことない香りだった。

「私、朔夜。キラ、またね」

ひらひらと手を振りながら少女、朔夜は希螺が先ほどまで歩みを進めていた廊下の先へと歩み去っていった。

あわてて後ろを振り返るが朔夜の姿はどこにもない。

ちょうどすぐ先で廊下は右へと曲がっている。道なりに進むしかないので、おそらく角を曲がりその先へと行ってしまったのだろう。

角を曲がったその先に何があるのかを希螺は知らない。

そもそも帰ろうとしていたのだ。

そう思ってエレベーターの方を見るが、足はなぜか動かなかった。

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