オバケの駐在所
それは家にいたのより
手に余るほどひときわ
大きかった。

「これはクダンって
オバケだよ。

取り憑かれると
未来を予言したり
心の中を覗いて
色々教えてくれたり、
大抵は人の真似ばっかしてる
害のないやつさ。
他人にもその声は
もれちゃう時もあるけど、
賢人とも呼ばれてるんだぜ?
ちょっと気色わるいけどな」

警察のそいつは
人面蜘蛛をそっと
机においた。

その蜘蛛は眉間に
シワを刻んだまま
いい具合につゆが
染みこんでいる大根を
口にくわえ、
熱そうにあごを動かして
食べだす。

どことなくその顔は
俺に似ていた。

……もうこの警察はすべてを
知っている。
俺の人生は終わるのか?
れいかは?お義母さんは?
俺はどうしたら……。

「俺はこの時代に
生きてるべき
人間じゃないんだ。
今更法の下で動かないさ。
それより、飲めよ」

とっくりをよこして
熱燗を注ぐ。

俺はそれを躊躇せず
一気に飲んだ。

「……何を言ってるか
わからない。
俺は何も話すことはないし
何もしていない。
尋問しても無駄だよ。
お門違いさ。」

間がもたなかった俺は
人面蜘蛛の食べている大根を
横取りしてかぶりついた。

だが自分が猫舌なのも
忘れていて
すぐ吐き出してしまう。
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