オバケの駐在所
「咎める気はない。
ただ一緒に
飲みたかっただけさ。
クオリティオブライフ
ってやつ。
お前の分野だろ?」

舌はどうやら
火傷したらしい。

俺に改善の余地が
あるのかはわからない。
お先が真っ暗なだけだ。

ハジメとかいう男は
俺のことを気づかって
くれているのだろうか?

駅前だというのに外から
雪ではしゃぐ
若者たちの声が聞こえる。
サイレンは
まだ聞こえていない。

俺はイスに座り
顔を強くしかめた。

そしてバッグの中から
携帯を取り出して
時間を確認する。

いつもの電車はもう
出たようだ。

そのまま震える指で義母に
メールをうった。

『やはり今夜は
飲んで帰ることにしますので
遅くなると思います。
それと鍋に入っている
今朝の味噌汁は
味噌が入っていないので
捨てても結構です。』

義母の戸惑った顔と
苦笑する顔が目にうかぶ。

れいかは今日も帰りを
待っていてくれてるかな?
料理ができなく
なったからって別に
いいんだ。

これからの人生はもう
俺の曲がったものさしじゃ
どうなるか
見当もつかない。

わかるのは蜘蛛の表情が
笑顔になるには
まだまだ当分先だろうと
いうこと。

俺はゆっくりと
倒れるように机にふせて
携帯を閉じた。
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