オバケの駐在所
……血。
あの時聞こえていた
水の音はそれなのか?

戦慄する。

殺人がこんな身近な話に
なってくるなんて……。

――雪が都内を
白く染めていた。

ビルの屋上とか
こうしてまじまじと
一望することなんて
今まで一度もなかったから
少しだけ恐さも忘れて
傍観していた。

辛さも苦しさも
そこに投げ捨てたかった。

しわだらけになったスーツも
禁煙ができないまま
吸い続けている煙草も
しがらみも
みゆきに対するうっぷんも、
全部ぜんぶ
吸い込まれそうな地面に
叩きつけてやりたい。

償いたい。

馬鹿な。

それじゃなんの解決にも
ならないのに……。

馬鹿だ……。

警官はボタンのついた
携帯灰皿に
吸い殻を捨てると、
静かに腕を組み前を向いたまま
肩で雪まじりの風を
切っていく。

悠々としているその様は
春が待ちきれない
ツバメのように見えた。

……この男は
何者なんだろう。

「あんた……。
もしかすると
みゆきと恋人だった……
とかないよな?」

そう聞くと
急にガクッと足元が沈んだ。
飛行機が揺れたような感覚で
ちょっと驚いた。

「……ん、んなわきゃ
ないだろ。
こんなところで
アホな質問しないでくれ」

はぐらかしてるんじゃ
ないだろうな。

……まぁいまさら
俺がしゃしゃり出て
どうのこうの言える間柄では
ないのは確かなのだ。
問いつめる資格も
ないのだから。
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