夕暮れ色の君


…だけど、そのことを蒼に聞くことができないあたしは、弱くて。



〝蒼を傷つけたくないから〟なんて、すぐに理由なんか作れるけれど、

結局は、あたしは聞くことを怖がる臆病者。



あたしも。

…蒼、も。


ただ、弱さにすがったまま動けない。



…何時(いつ)、蒼は通話を閉ざしたのか、

繰り返し耳に流れる、お決まりの電子音が、何処かあたしを寂しくさせて。



「っ、」



少し、視界がぼやけた。



…鳴るはずも無い携帯を握り締めて、例えることのできない切なさを胸に覚えた、暗い夜。


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