なんでも屋 神…第二幕
筋肉の固まりのような左手を、腹の前で直角に折り曲げ、優しく開いてくれた扉の奥に進んで行く。



割れんばかりに叫ばれる観客の喚声と興奮、遠くに見えるステージの上では、語呂合わせ気味な韻を踏むラッパーが、盛り上がる観客に向かって汗と魂の籠もったリリックを放っている。



腰を右に左に振る女達に、手を挙げて音に乗る男達。



外壁と同じくコンクリートを白に塗り変えた壁には、色取り取りのグラフティが踊り、天井からはスポットの光が柔く降り注ぐ。



その天井の低さから、二階はテーブル席になっているのだろう。視線を右に動かせば、優しい色使いのチェックシャツを着た店員が、カウンター越しに客と談笑しながら、矢継ぎ早に飛んでくるオーダーをこなしている。



鼓膜が裂ける程の大音量は、隣で話しかけてくる一葉の声を連れ去り、殆ど口パク状態。



熱気の隠ったクラブ内は蒸し風呂のようだが、楽しんでいる奴等にはそれぐらいが丁度良い。



だが、クラブに入る前から感じていた異様な熱気は、中に入るとその色を強く前面に押し出してくる。



混乱と興奮…色めき立つ奴等の瞳に力は無く…身体は音に乗せたまま…嫌な雰囲気がタバコの煙と一緒に漂う…。
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