Alice Doll
きゃっ、なんて言う乙女チックな驚きの声は出なかった。叫ぶ、という概念すらどこかに飛んでいた。
その口は叫ぶ代わり、ギュッときつく結んだままだ。
声をかけられ、飛び退くようにして振り返ったその先。由衣の目に飛び込んできたのは、闇夜で輝く真っ黒なドレスだった。
真ん中で大きく裂けるように開かれたドレスはシンプルだが、決して地味ではなく、真っ白な細く長い足を際立たせているように見えた。
体に巻き付くようなドレスは、細い腰に伸び、胸のところで止まっていた。そして、そのドレスは胸部をも強調しているような作りになっていた。
由衣は涙を流すのも忘れ、その人の体に釘付けになった。同じ女性として憧れる、完璧なまでのプロポーションだったのだ。
モデルでもやっているのだろうか?
いや、しかし、どうしてそんな人がここへ?
様々な疑問が頭の中で出たり消えたりするのを感じながら、由衣は女性の顔を見ようとして顔を上げた。
「どうかなさいました?」
再びの女性の声に、ドキリと心臓が跳ねた。
「あ……」
しかし咄嗟に言葉がでない。いや、走ったり泣いたりして疲れのピークに達していたため、舌が回らなかったのだ。
気まずくなって顔を見ることなく、由衣は下を向いてしまう。
女性はそんな由衣の姿を見て何かを察したのか、しゃがみ込み、由衣に視線を合わせた。
「良かったら、休まれていかない? 紅茶を用意するわ。疲れを吹き飛ばすくらい美味しいものを」
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