Alice Doll
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どーうしても今日はこんなことになってしまう日のようだ。
由衣は今までかけたことのないアンティーク調の椅子に、居心地悪気に座っていた。
何度も何度も居住まいを正すが、どうにも落ち着かない。
目の前のゴシック調の机も、二重にも三重にもなっているカーテンも、高価そうなカーペットも絵画も花瓶も、極めつけは彼女を見下ろすシャンデリアも、すべてが夢のようだ。
あの時、猫を追って入った門扉は、アパートか何かの門扉だと思っていた。
しかし実際には大きく違った。ここはとても大きな一軒家だったのだ。
お金持ちの住む屋敷に不法侵入しちゃったってことだよね。
由衣は目を右に左に動かしながら、警察に突き出されたら何と言おうかと考えていた。最早、家の鍵のことなど二の次だ。
それにしても、この部屋までくるのに余裕がなかったせいか、改めて見るとかなりの屋敷だと由衣は思った。
こんな家、普通は有り得ないよね。
人形ないけど……、噂の人形屋敷だったりして。ま、そんなハズないか。
ゆっくり部屋の中を観察してみると、やはり人形などどこにもいない。
と、いうことは人形屋敷ではないのだろう。
そう由衣は判断した。
ではここはどこなんだろう。一体自分はどれだけ遠くにきてしまったのだ。
が、そう途方に暮れていても仕方ない。先程の女性がまた来たとき、今度はちゃんと顔を見て、話を聞いてもらおう。