Alice Doll
ああ、それにしたって!
由衣は小さくため息をつく。とてもじゃないが、この部屋で寛げる雰囲気ではない。むしろ緊張と疲れが溜まる一方だ。
こんなことなら地面に正座の方が良いかもしれないな、なんて思い始めたときだった。
「紅茶がアッサムしかなかったの。本当ならウバにしたかったんだけど……」
先程の女性が、お盆に小さな二つのコップを乗せてやってきた。「疲れたときにはミルクティーだと思わない?」女性がそう軽く主張しながら、コップを由衣の前に置いた。
「あ、ありがとうございます」
慌てて受け取り、暖かいミルクと茶葉の香り沸き立つコップに口付ける。
走ったときの汗と、泣いたときの涙で喉がカラカラだった彼女に、それはとても心地よく潤いをもたらしてくれた。
一気に飲み干したいところだったが、紅茶が熱かったのと、あまり品がないように思えたため、一端カップを置く。
そこで由衣はやっと女性の顔をまじまじと見ることができた。
女性は一言で言うと、美しかった。柔らかな栗色の髪はストレートだが柔らかい光を放っている。
長い睫毛より目立つ、深い緑色の目は思慮深く、大人の女性という印象をより強めている。
立っているときにも思ったが、光の下にあるとより一層、そのスタイルは際立つ。黒いドレスが白い肌に映えているからかもしれない。