ホタル


「…朱音」


ようやく裕太が口を開いた。

その目は今まで見たことのないような、虚ろなもので。

でも確かに、あたしが映っていて。


あたしはそっと、カーディガンの袖口で裕太の顔を拭った。

何時間濡れていたのだろう。頬はびっくりする程冷たくて。


「…どうしたの?」


眉がくっと寄るのがわかった。二人の間に、しとしとと雨が降り注ぐ。

色のなかった裕太の表情に、微かに苦痛が浮かんだ。小さく唇を噛み締める。


「裕…」


前触れもなく、裕太はあたしの肩に腕を回した。

冷たい裕太の身体があたしを抱き締める。

ドクンと心臓が鳴った。胸が締め付けられる。あの頃と、何も変わらないまま。


「…だ…」
「え?」


裕太の消えそうな声。

それは雨に紛れてしまいそうな程に、小さな声。

でも確かにその瞬間、裕太の声以外の音が全て消えた。







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