ホタル
…「朱音?」
耳許に届く優しい声で、あたしはようやく目を覚ました。
偽物の現実があたしを安心させる。
「汗かいてる」
「…夢、見てたから」
「怖い夢?」
コクンと頷くと、祐太は何を言うわけでもなくあたしのおでこを撫でた。
汗で髪が貼り付く。
「出かける?」
「どこへ?」
「どこでも。夕飯の食材、買いに行こう」
まだ朝日も昇りかけなのに、もう夕飯の話を始めるなんてなんだか不思議。
1日の全てを、ひとつのことに費やす。
それがなんだかとても贅沢で、とても儚くて。
「うん、行こう」
横になったまま、あたしは答えた。
優しい裕太の目許が、視界の真ん中に埋まった。