ホタル



……………

夜風があたしの体温を少しずつ奪っていった。
でも不思議と、寒いとは感じない。

部屋に、裕太はいなかった。
探さなくてもどこにいるかなんてわかってる。


夜空を仰いだ。
空高くに、星が見えた。



…公園は、あの頃と何も変わっていなかった。

この場所は、どれだけあたし達の想いを見てきただろう。

幼い日々も、辛い涙も、初めて、裕太に気持ちを告げたのも。全てこの、小さな公園で。


始まりの場所だった。
だからこそ今、この場所が必要で。


「…裕太」


声をかけた。

ブランコに腰かけた裕太は、ゆっくりと顔を上げた。


月明かりがあってよかった。

裕太の表情が、ちゃんと見えるから。


小さく微笑んで、あたしは側に寄った。
手すりに軽く腰かけて、そっと深呼吸をする。

夜の澄んだ空気が、あたしの中に溶け込んでいった。


「ここだと思った」
「…なんで?」
「わかるよ、裕太の行きそうなところくらい」

「そっか」、裕太も、小さく笑った。
穏やかな会話が、なんだか不思議だった。

でも。


「…ねぇ、裕太」


もうあたしは、逃げちゃいけない。



「終わりにしよっか。全部」



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