ホタル


ブランコの音が、消えた。

虫の音すら、夜の闇に溶けていって。


音のない世界に、あたしの決意だけが浮かんで。


「…なんで?」

今にも消えそうな、裕太の声。

「なんで、そんなこと言うの?」
「裕太、」
「俺は朱音がいればいい。朱音しかいらないんだっ。世間が許さなくても、誰にばれたとしても、そんなの…」
「お母さんっ、」

裕太の側に寄った。
裕太の手の上から、ブランコの鎖を握る。


「お母さん…泣いてた」


裕太の瞳の色が、変わった。
掌に力を入れる。


「ねぇ…泣いてたよ。あのお母さんが、泣いてたんだよ」
「…そんなの…」
「あたし達の想いは、傷付けるよ。あたし達も…傷付くよ」

何人もの人を傷付けて、同時にあたし達も傷付いてきた恋。
目を閉じると、沢山の傷が浮かんだ。

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