ホタル


英里は一度、恋で深く傷ついていた。
遠恋だった歳上の彼氏に堂々と二股をかけられていたのだ。しかも、英里が浮気相手として。
まだ今よりもっと幼かった英里はそんな現実をどうすることも出来ずに、傷を癒す手段として手当たり次第に合コンをした。

そこで出逢ったのが、雅人さんだった。


「好きなんでしょ?」

あたしの問には答えずに、新しい煙草を取り出す英里。綺麗な横顔から煙が吐き出され、それが空へと昇っていく。

「懐かしいね、あの日」

その横顔が、くくっと微笑んだ。いぶかしげに見つめ、「あの日?」と聞き返す。

「雅と出逢った合コンだよ。裕太には驚かされた」

笑い続ける英里とは対照的に、あたしは記憶を反芻していた。

あの日の甘く、痛い記憶。


やがて英里はあたしを見つめ、「まだ切れてないの?」と呟く。
あたしは小さく頭を動かした。

「でももうおしまいだから。あたしも大学県外だし、向こうも家出て寮入るみたいだし」

なるべく明るく言いながらあたしも英里の隣に並んだ。
二人して煙草をふかす。


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