ハルジオン。
「実はちょっと心配してたんだ。来ないんじゃないかって」

そう言う靖之の顔は少しだけ大人になっていた。役場で何の仕事をしているのかは知らなかったが、育ちの良さそうな顔が日に焼けて凛々しくさえ見える。

「約束だからな」

「ありがとう」

「なんだそれ」

別にお前に会いに来た訳じゃない、と心の中で呟いて、達也はもう一人の姿を探した。

手紙を受け取ったからここに来た。それはそうに違いないが、靖之に会いに来たわけじゃない。ましてや今更あんなものを掘り起こして何になると言うのか……

「……で」
達也は気怠げに頭を掻いた。

「百合子は?」
と問うよりも早く、靖之が達也の背後に視線を向けた。

潜水橋の映像が脳裏をよぎる。
あの時百合子はどんな顔をしていたのだろう。

ゆっくり振り向くと、胸元で小さく手を振る百合子の姿が濃紺色の夜陰の中に浮かんで見えた。

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