ハルジオン。
言い換えれば、母との思い出はそれ以外どれ一つ鮮明なものがなかった。

それもそうだろう。
四歳の記憶などその程度のものだ。

――ただ、

『あの男が逸子を殺したんじゃ』

白いカーテンがなびく病室で、少しずつ体温を失っていく母の傍らに立つ祖父が言った言葉。

その絞り出すような声と、達也の肩を掴む祖父の力の強さだけは、幼い達也の胸の奥深くに刻まれたまま消えることがなかった。

「パパが、ママを……殺した」

ただ漠然と、その言葉の意味も理解できないままに、幼い達也は祖父の言葉を呟いた。

祖母が「違うよ」と言って達也に首を振った。それを遮るように祖父はもう一度こう言ったことを覚えている。

「違うものか」と。

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