剣と日輪
 石原は苦笑するしかない。
「兎に角、ストレートの空振りばかりじゃ、しょうがないですよ」
「うん」
 公威は、
「休ませろよ」
 とセコンド気取りの石原に叫びたかったが、声が出なかった。
「カーン」
 公威にとって未知の第二ラウンドが、時間通りにやって来た。
「ゴー」
 石原に背中を押され、公威はリング中央に突進した。
「うおお」
 公威は雄叫(おたけ)びを上げ、戦車の様な小島に突きかかって行く。小島は公威のパンチをかわしながら、強烈なカウンターを、公威の右テンプルに食らわせた。公威は一溜(ひとたま)りもなく、右膝を屈折させ、マットに諸腕(もろうで)を立てた。完敗である。
「いやあ、いいもの見せて貰いました」
 石原は慎太郎刈の後頭を掻(か)きながらリングに上がり、小島に介抱されている公威に感謝している。
「大丈夫ですか?」
 公威はヘッドギアを外すと、
「小島コーチのカウンターは、ずしりとくるよ」
 と赤く腫(は)れているこめかみを石原に向けた。
「すみません。三島さんの気迫につい引き込まれて、本気で撃ってしまった」
「いえ、それで結構です。なまじ手加減されて無事でいるよりずっといいです」
「いや、プロが素人さんに、然もスパーリングで。裏を返せば、それだけ三島さんが上達したってことです」
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