剣と日輪
「こちらこそ、お母様には色々教えていただかなくてはなりません。宜しくお願いします」
「早く孫の顔を見せてくだされ」
 梓が瑤子を拝んだ。
「はい」
 瑤子ははにかみながら、そう答えた。平岡家の真(ま)芯(しん)に、ジューンブライドが座した雨夜(うや)だった。
「金閣寺」
 が、
「炎上」
 というタイトルで、八月に大映で映画化された。主演は市川雷蔵、監督は市川昆だった。公威は新婚旅行で京都に立寄った際、大映京都撮影所で、
「炎上」
 収録中の撮影現場を目睹(もくと)しており、試写にも参席(さんせき)していた。
「炎上」
 はあつ子のコネの産物である。
「傑作だね」
 試写室を出た後、公威はそう言い切った。
 瑤子の懐妊が判明したのは八月である。公威は新居のデッサンを描き始めた。女優長岡輝子の仲介で、大田区馬込に百三十三坪の土地を購入し、新潮社副社長佐藤亮一から紹介された、清水建設住宅部長鉾之原捷夫(ぼこのはらやすお)と、新潮社社長室で対面した。
 公威の注文は、
「ヴィクトリア朝の植民地スタイルの館」
 だった。公威は中南米のコロニアル様式の建造物のファンである。カリブ海やブラジルの雑多で無様式の、底抜けに明るい、善悪の価値の無い危険な香りのする屋形。バルコニーでハバナの葉巻を喫し、バーボンを一気飲みできる空間が、公威の居所に相応しい、
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