剣と日輪
 必勝にとって昨夏の、
「日学同分裂劇」
 は持丸と斉藤のどちらにつくか、であり、盟友の矢野や宮崎等が残留したので、付き合っただけという色合いが濃い。公威とも打ち解けて話した事などなかった。入隊初日に浴場で寛ぎながら喋った公威は、テレビや映画の中、又は公共の場で観た気障ったらしい文化人ではなく、爽快感のある、
「壮士」
 そのものだった。飾り気の無い純白の人だった。
(俺も、ああいう大人になりたい)
 少年期河野一郎とシェイクハンドした時分の熱気が、再度必勝の心魄(しんぱく)に宿った。消灯時間を過ぎた、寝息のみが風態(ふうたい)となっている大部屋の入り口間際のベッド上で、必勝は熱誠に火照りながら、身を横たえていたのである。

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