剣と日輪
「これより御殿場駅迄ロードワークする。俺に続け!」
「はい!」
 二十二名は一団となって夜の明けきらぬ娑婆へ出た。
 助教の発する、
「いっちにい、いっちにい」
 の後に全員が、
「そうれ!」
 と追唱する。その奇妙なリズムは隊列の基調となって、月夜の駿河路をひた走る一群の潤滑油(じゅんかつゆ)となった。
 寝起きの往復六キロの坂道は、不健全な必勝には堪えた。右足で大地を蹴るごとに、激痛が走る。ただでさえ走行困難な状態であるのに、控え銃(つつ)のまま馳走(ちそう)するのである。必勝は懸命に皆の後を追ったが、付いていけなくなり、走者の群れから逸れていく。
 公威は必勝の体たらくに舌打ちしたが、後を省みるゆとりはない。ミッドナイトランは、四十三歳の中年には過酷であった。
(その俺ですら付いていってるのに)
 公威は若者の軟弱振りに、落胆しながら、必勝の完走を願わずにはおれなかった。何故か今年一月に自殺した東京オリンピックの銅メダリスト円谷幸吉の、四年前テレビ観戦した、国立競技場における苦渋に満ちた、英国のヒートリー選手とのデッドヒートが瞼に浮んだ。
 公威は官舎に帰着したが、門前で必勝のゴールインを待ち侘(わ)びていた。何時の間にか日学同特使の四名も、公威の側に居た。
「森田の奴、骨折した右足庇うように走ってたな」
 山本は心配気である。日学同の武井、大石、石津は、
「やっぱり無理さ。骨折完治してないのに。宮崎さんも可哀相な事するよな」
 と口々に日学同幹部の悪口を言った。
「彼は骨折してるのか」
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