剣と日輪
「残念だが、出席できない」
 川端は悩みに悩みぬいた末に、拒絶したのであった。
「そうですか。何か不都合でもあるんですか?」
「否」
 川端の口調は荒れた。
「駄目なものは駄目だ。強いて言うなら小説に思想なし」
 にべも無かった。
(小説に思想なし?併し昨年七月今東光の参院選出馬の時、選挙応援演説してるじゃないか!)
 公威はそう腸が煮えたが、口にするのは憚(はばか)られる。
「そうですか。残念です」
 川端が楯の会を単なる右翼団体としか見識(けんしき)していないのが、公威には悔しかった。だがそれは言っても是非も無き事である。
(例え恩師に理解されずとも、俺は俺の道を行く)
 悲愴な心髄に背を叩かれながら、公威は受話器を置いた。
(もう、川端先生が分からない)
 公威の取捨選択の秤に、川端との交流までも乗ってしまっている。
(己を貫くとは、こういうことなのだ)
 公威は川端よりも、
「楯の会」
 をとるべきだった。それは文学との離反の兆しであり、殉国への道標を越えた印でもあった。
 川端と公威に隙間風が吹くようになる十二日前、十・二一国際反戦デーが、今年もやって来た。今年は日本社会党、日本共産党、総評が合議し、
「安保廃棄、沖縄の即時無条件全面撤退、佐藤首相訪米抗議、国会解散、ベトナム侵略反対統一行動」
 と銘打っている。反政府デモは全国八百二十二箇所、参加者は延べ八十六万に至ることになる。
 
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