剣と日輪
公威は鎮圧されゆく共産主義・無政府主義者に対する、最大の心情的サポーターと化している。そして幕は降りていく。
(彼等は最早ライバルではない)
敵を失った楯の会は、その存在理由が消滅してしまった、と公威は茫然自失していた。
天上には月が翳っている。
(日輪はもう上らない。靄(もや)のかかった朧月夜が続くのみなのか)
公威はただ長嘆するのみであった。そして楯の会隊員達と合流して六本木へ繰り出し、寿司屋で必勝等と男泣きに泣いた。
雨湿に気落ちしがちだった六本木までの道すがらには、夥(おびただ)しい警官が動員され、進駐軍の再来を思い起こさせた。公威は、
「今夜は飲め」
と必勝の猪口に酒を注ぎ、
「警官に東京を制圧されるのは、誰も文句を言わないんだな」
と皮肉った。
(ああ、あの無数の警官が自衛隊と、楯の会だったなら)
必勝も公威も楯の会幹部達は、そう誰もが胸を掻き毟(むし)った。そして希望を断たれた味気の無い自棄(やけ)酒に気を紛らせることしか、できなかったのである。
「これからどうすればよいのか」
楯の会にとって悪夢の様な一夜が明けると、必勝も、公威もそう途方に暮れていた。十月三十一日金曜、公威は楯の会幹部を自宅に招集し、
「楯の会の今後」
について意見を交換した。
「佐藤首相は十月二十一日を警察力だけで乗り切った事で、自衛隊をこのまま飼い殺しておく方針を確定してしまっただろう。我々の出番はもう無くなった。楯の会の存在理由はあの夜煙のように消えてなくなった。我々は今後何を指針にして活動していくのか」
公威は十月二十一日以降、酒浸りとなっている。
(彼等は最早ライバルではない)
敵を失った楯の会は、その存在理由が消滅してしまった、と公威は茫然自失していた。
天上には月が翳っている。
(日輪はもう上らない。靄(もや)のかかった朧月夜が続くのみなのか)
公威はただ長嘆するのみであった。そして楯の会隊員達と合流して六本木へ繰り出し、寿司屋で必勝等と男泣きに泣いた。
雨湿に気落ちしがちだった六本木までの道すがらには、夥(おびただ)しい警官が動員され、進駐軍の再来を思い起こさせた。公威は、
「今夜は飲め」
と必勝の猪口に酒を注ぎ、
「警官に東京を制圧されるのは、誰も文句を言わないんだな」
と皮肉った。
(ああ、あの無数の警官が自衛隊と、楯の会だったなら)
必勝も公威も楯の会幹部達は、そう誰もが胸を掻き毟(むし)った。そして希望を断たれた味気の無い自棄(やけ)酒に気を紛らせることしか、できなかったのである。
「これからどうすればよいのか」
楯の会にとって悪夢の様な一夜が明けると、必勝も、公威もそう途方に暮れていた。十月三十一日金曜、公威は楯の会幹部を自宅に招集し、
「楯の会の今後」
について意見を交換した。
「佐藤首相は十月二十一日を警察力だけで乗り切った事で、自衛隊をこのまま飼い殺しておく方針を確定してしまっただろう。我々の出番はもう無くなった。楯の会の存在理由はあの夜煙のように消えてなくなった。我々は今後何を指針にして活動していくのか」
公威は十月二十一日以降、酒浸りとなっている。