剣と日輪
「できましたわよ」
 大原がハスキーボイスでディナーの幕開けを告げると、ワイワイガヤガヤという雑音に、公威も融解されていった。
 
「美味しかったわ」
 大原が口をナプキンで拭うと、会食者は居間のソファー等に移動し、会話を楽しみ始めた。公威だけがテーブルに残り、再びぽつんと開口した。
「日本は今呪われているのだ。金銭欲に現を抜かし、精神を軽蔑し、国体を嫌い、国を馬鹿にしてマイホームとファミリーの事しか念頭にない。個人の経済的繁栄を追うばかりだ。大和魂は滅亡寸前だ。マッカーサーの憲法が全ての元凶であり、学校教育が堕落の根源になっている」
「どうすればいいのです」
 ストークスは皿を片付けながら問うてやった。
「日本列島は緑の蛇に巻きつれている。じわじわと締め付けられ、窒息させられつつある。日本人はその事に気付かぬ。薔薇色の幻覚を大蛇に見せられ、痛みを忘れさせられている。やがて巨大な激痛と共に滅亡がおとずれる事も知らずに。この大蛇には力では適わない。どうすることもできないのだ」
 公威は嘆恨(たんこん)した。天に涙しているようだった。
「三島さん。貴方が変えればよいのです。貴方ならできます」
 公威はうんざりした。
(所詮イギリス人には分からない。他人事なのだ)
 公威は一言、
「有り難う」
 と返した。
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