剣と日輪
天人五衰編野分
 十一月二十三日月曜日。公威以下五名の楯の会隊員達は、丸の内皇居前にあるパレスホテル五一九号室に集った。
「決行」
 の予行練習をすべくである。五一九号室を総監室に見立て、演習を繰返した。
 外部に音が漏れないようテレビのボリュームを大きくし、公威は自衛官達に決起を促す演説を吐く。公威の演説は、テレビの雑音に負けそうだった。
「よく聞き取れませんねえ」
 聴衆役の必勝が、肩を窄(すぼ)めた。
「テレビの音下げますか?」
 小川が音量のスウィッチに手をかけようとすると、公威が止めた。
「これでいい。当日の雑音はこんなもんじゃないぞ。恐らく野次と怒声に我々は曝される。これでこそ練習になる」
「先生の命を懸けた演説も、雑音に掻き消される訳ですか」
 小賀は無念そうだ。
「俺の演説に耳を傾ける自衛官など、いないさ」
 公威は断言する。
「それでもいい。俺達は自衛官に語りかけるんじゃない。日本人の魂に語りかけるのだ。魂は永遠だ。例え今は度外視されようとも、無限の未来において、必ずや俺達の行動は日本人の胸を打つ。その時が日本復活の時。吾等が正当に評価される時なんだ」
「はい」
 四名は口をそろえた。
(そうだ。俺達は日本人の魂を揺動かすのだ。百年後の評価を待って、腹を斬るのみ)

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