剣と日輪
必勝は死語になっている、
「滅私奉公」
 の四文字を自我に刻印した。
 公威は当日の謀計を説明しつつ、実演してみせる。丸で演劇の演出の様である。
「いいか。俺が名刀関の孫六を、総監に自慢して見せる。その時が来たら、俺が小賀ハンカチと言う。それが合図だ。速やかに総監を拘束せよ。いいな」
「分かりました」
 四名はやる気満々だった。公威が総監役を演じ、背後から小賀が公威を襲った。古賀と小川が小賀に助勢し、必勝は公威と共に出入り口にバリケードを急造する手順である。三人が暴れる公威を、力でねじ伏せた。
「ようし。後は抵抗する自衛官から総監室を全員で死守し、彼等に要求書を手渡す。総監室前のバルコニーに自衛官を集結させ、俺が演説を打つ。四名は演説終了後名乗を上げ、俺と森田が腹を切った後介錯をする」
 一段落つくと、公威は以下の様な、
「要求書」
を作成したのである。
「要求書

一、
楯の会隊長三島由紀夫、同学生長森田必勝、有志学生小川正洋、小賀正義、古賀浩靖の五名は、本十一月二十五日十一時十分、東部方面総監を拘束し、総監室を占拠した。
二、
要求項目は左の通りである。
(一)
十一時三十分までに全市ヶ谷駐屯地の自衛官を本館前に集合せしめること。
(二)
左記次第の演説を静聴すること。
(イ)
三島の演説(檄の撒布)
(ロ)
参加学生の名乗り
(ハ)
楯の会残余会員に対する三島の訓示

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