剣と日輪
 三谷夫人は公威に言い残すと、元の席に戻った。
 公威は娘を思う母心をひしひしと看破(かんぱ)し、手帳に鉛筆で、
「お母様は、僕達が気になるみたいですね」
 と認めて破り取り、邦子に手渡した。
「何ですか?」
 邦子は紙上の文言に、項(うなじ)迄赤らめている。
「そう思いませんか?」
「そうかしら」
「そうなんでしょう」
 公威は感情が面に出ない。
 邦子は公威を、異性として認定した。
(この人は私を好いている)
 そう信じられると、邦子は公威の熱視線を熱く肯じた。
 公威も亦邦子との無言の了(りょう)悟(ご)に頬が変色していくのが自認でき、
(自分には、この恋の情熱を制御できないだろう)
 とうっすら予料していた。
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