剣と日輪
(丸でロシア革命前夜の様だ)
 公威は群衆の憤怒(ふんぬ)を肌で実感し、空恐ろしさを忍んでいる。
(若し今この場で、彼等がこのまま世の中に牙を剥(む)いたら)
 寄添い、吊革に掴まっている邦子を公威は憂いた。
(例え死んでも、邦子だけは守ってみせる)
 公威は王女を守護する親衛隊長の心映えで、“賊”が充満する車両内に居た。
 公威は渋谷駅で下車し、平岡家へと急いだ。
(東京は広いなあ)
 戦禍(せんか)の痕跡(こんせき)が見当たらない近所に、公威は胸を撫で下ろした。
「ただいま」
 公威は何時も通り、台風の目の中の和平にある我家に上がったのだった。
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