桜の咲く頃 ~君に~
「大変だったのな。」
首筋に触れていた手を私の手と重ねてグッと引っ張る。
「あっ。」
肩に掛けられた傘がバサリと地面に落ちる。
「俺ん家おいで、雨に濡れたままだと風邪引く。」
ね?って首を傾ける。
「…ありがと。」
「うん。素直じゃん♪」
満足げな表情を浮かべて落ちた傘を拾う。
私に傘を掛けていたせいで自分もビショ濡れ。
もともと雨に濡れていた私も同然。
濡れているのに傘を差して歩く。
彼に取られた手は
まだ開放されないまま繋がれていて。
少しだけ、
人の温かさが感じられた。
大きくて温かい手から
少しだけ、
人の優しさが感じられた。