涙の宝器~異空間前編
「今あの人がウチの名前呼んだの。初めて会った人なんだけど」

「え、どこ?」

「ほら、あの人」

彼女が指さしながら説明するが、連れの女に男の姿は見えていなかった。

不思議そうにやり取りする彼女たちをよそに、涼は自分を疎(おろそ)かに存在させていた。
彼女へ伝えた後でどれくらいの時間が過ぎたであろうか。

そこに二人の姿はなかった。

「あれ、何で俺こんなとこにいるんだ。
あれ、俺は誰だ?
俺の名前は重も…俺は……誰だ?」
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